相川コータロー作品集

伽藍人形:第1話 伽藍人形

作:相川コータロー


私は、核となるものが無い状態で創られた。
あなたの手によって生み出された素体は、何百何千何万と上るけれど……。
私だけが"空っぽ"の状態で飾られている。

私の名前は、"不和"、そう……不完全な不良品の御人形。

私を買ってくれる人は、十数年現れていない。
誰一人として、私を欲しいと思わないの。

「あなたは、私を買って下さいますか?」
私の目は死んでいる。光のない絶望の淵に落ちたかの様に。

私を買ってくれなくても良いの。だって、あなたとずっと居られることが嬉しかったから。
そう、あなたの手の中で弄ばれるのが、私にとっての幸せ。

「あなたのためなら、何でも出来る。」
そんな気持ちが私の空っぽな部分を埋めてくれた。

でも、あなたは喜んでなかったんだね。
そうだよね……。空っぽな御人形なんていらないよね……。

私は知っていたのかもね。あなたにさえ必要とされてないって……。

あっ、でもこれだけは伝えておきたいの……。
不完全な"不和"を愛してくれてありがとう。

"愛する人が一人でも居れば、私は生きて行けると思ってた。でも、それは嘘だったんだね"

私は、あなたに捨てられた。
ゴミ箱でも、集積所でも、何でもない。
焼却炉の中に消えて行った。

三年後、私"不和"を元にした新しい素体が生まれた。
その子の名前は、私と同じ名前ではなく、"アイ"という名前だった。

そう、私がこの世界で唯一愛した人が、私の代わりを創ったの。
それが"アイ"。

でも、この子の中に居るのは、誰でもない。この私、"不和"。
ずっとあなたに愛されていたいと思い続けた私の新しい身体。

「今回は、完成したね。」
時間が経てば薄れてしまう。そんな愛を人は持つけれど、私は違ったの。

十数年前に生み出されて、あなたの最低な作品と呼ばれ、捨てられた。
あの時の死から、この日が来るまでずっと消えない愛。

出逢えたことが幸せだと思った。この気持ちを大切に出来る幸せ。
やっと、やっとあなたは気付いてくれた。

"はぁ……。こんな幸せな気持ちになれるなんて……。"

「あっ、申し遅れました。私の名前はアイ。またの名を、不和。
今日からあなたの心は私のものですよ?覚悟してくださいね。」

私は、あなたのことを歪んだ目で見つめる。
晴れやかな笑顔の裏側に、憎悪を隠し持って。